日本の公立学校教員の労働環境改善に向けた取り組みが、新たな局面を迎えています。

文部科学省は、教員に支給される「教職調整額」がを現在の4%から13%に引き上げるという大幅な改定を提案しました。この提案は、長時間労働や教員不足といった深刻な問題に対処するものであると考えられます。

この記事では、教職調整額が4%から13%に引き上げられるという提案をした文部科学省に対して、現場の教員たちの声をまとめました。

数学の先生

残業代を増やして欲しいわけでは…

 教職調整額とは

 まずは教職調整額についておさらいしましょう。

教職調整額とは、教員の職務の特殊性を踏まえて、時間外勤務手当の代わりに基本給の4%が上乗せされるというものです。

1971年に制定された「教員給与特別措置法(給特法)」により、基本給の4%が上乗せされる代わりに、教員には残業代が支給されないという法律があるのです。

この法律は50年以上前に制定されたもので、当時の教員の残業時間の平均が約8時間だったことから4%という数字が算出されました。

しかし、2022年の調査によれば、小学校で月平均41時間、中学校で58時間にも及ぶ残業が行われているという実態が明らかになっているので、この4%という調整額は、現代の教員の労働環境にはまったく適合していないと指摘されてきました。

 背景にある教員不足と長時間労働の問題

1か月の平均残業時間は上述した通りですが、2023年の日本教職員組合の調査によれば、持ち帰り残業を含めた実質的な時間外労働の平均は小学校で91時間8分、中学校で116時間28分、高校で80時間16分と、いわゆる「過労死ライン」とされる月80時間を超える状態が続いています。

この差は教員の長時間労働が問題が社会問題になる中で、各自治体や学校では、「ノー残業デー」などの取り組みを行い始めたのですが、業務が削減されないまま勤務時間管理が進んで退勤時間が決められ、先生たちは仕事を家に持ち帰ることによって生じています。

また、教員不足も深刻な問題です。教育現場では、特に中学校における教員の採用倍率が大幅に低下しており、2023年には公立小学校の採用倍率が2.3倍と過去最低を記録しました。教員不足は、クラス運営や生徒指導に支障をきたし、結果として教員一人ひとりの負担が増加し、長時間労働を助長する要因となっています。

こうした背景から、教職調整額の引き上げは教員の待遇を改善し、教員不足の解消を目指すものです。

 手放しで喜んではいられない理由

文部科学省は教職調整額を4%から13%に引き上げるという提案をしましたが、ネットニュースなどでは「教員の残業代が3倍以上に!」という派手な見出しで紹介されています。

実際には基本給が25万円の教員であれば、1万円の上乗せ額が3万2500円になります。+2万2500円という額は小さい額ではありませんが、教員は手放しで喜んでもいられません。

 最近10%の上乗せは却下されてる

この13%への引き上げの話の半年ほど前にも、教職調整額を10%に引き上げるという提案がありましたが、財務省から「財源がない」ということで却下されています。

そのときから大した時間もたたずに13%の話が出てきたので、また財源がないと却下される可能性が高いのではないでしょうか。

 働き方改革が進まなくなる

もし13%の引き上げが実現した場合、これまでさんざん話題になっていた教員の働き方改革に終止符が打たれてしまう可能性があります。「残業代が3倍以上に!」という派手な変化があったので、もう仕事なんか減らさなくて良いでしょ、という論調になってしまうという懸念があります。

また、現場の教員たちにとっては、残業代を多くしてほしいというよりも、仕事を減らして欲しいという気持ちの方が大きいです。次の章では、現場の教員たちの声をご紹介したいと思います。

 現場の教員たちの声

 教職調整額の4%から13%への引き上げの提案に対して、現場の教員たちからは様々な反応が寄せられています。

 一部の教員からは、この増額が長年続く長時間労働の時間の問題に対する一歩前進として歓迎されていますが、多くの教員からは、教職調整額の引き上げだけでは、現場で直面する抜本的な問題を解決できないという懸念を抱いています。というのも、労働環境の改善を強く求める先生たちが多いように感じます。

 ここからはYahoo‼ニュースのコメントや、X(旧Twitter)に寄せられたコメントをご紹介します。

本当はここまで教員不足が深刻になる前に手を打ってほしかったけど、とにかく増額の方向で進んでいるようで良かった。 あとは業務負担の軽減も同時に考えていってほしい。

13%給料上げるなら、13%配置人数を増やした方が良いと思います。 教員が30人規模の学校で、4人配置が増えるなら、相当負担軽減になりますね。 授業の準備時間も確保出来て、生徒指導・いじめ問題にもより手が回り、児童生徒にもプラスになります。

元公立小学校の管理職としては、給料が上がることは歓迎したいが、教員の仕事を「子どもが校門を入ってから校門を出るまで」に限定すべきだと思う。登下校の安全やもめごとの対応から下校後の友達間や保護者間のトラブル処理、保護者や地域住民からのクレーム対応まですべて学校に任せすぎているんだ。

教員の人材確保には給与待遇の改善が必要という点だけ見ればそうかもしれませんが、ほとんどの現職や退職者は「そうじゃないんだよ…」って思うでしょう。世間で「定額働かせ放題」と揶揄される意味が分かっているのでしょうか?これでは「定額」を引き上げるだけで根本的な部分は解決されないです。

確かに早く帰りたい、仕事を減らしたい教員は少なくないです。しかし、子供達にもっと向き合ってあげたいと考える教員もいるのが現実です。 みなし残業を4%→13%に上乗せって、相変わらずみなし残業をしろと言ってるだけです。 むしろもっとサービス残業を増やせと言ってるようなものです。 勤務管理をしっかりして、残業手当は正しく支給するようにすべきだと思います。

現場にいると「仕事を減らす」が無理なんだろうなと感じます。多くの教育課題が山積していますが、仕事を減らせないという視点でなく、課題に対してどれだけ現場に負担があるかを想定し勘定してきた歴史がない…という視点です。 働き方改革が謳われるようになってから、会議を減らす・短くする、テストを減らす、部活を減らす…と、取組がなされていますが、抜本的ではありません。

こんなばらまきではなく、他の先進国と同じように、学級担任制度を廃止する、児童生徒の定数を減らす、一般の団体が部活の代替となれるよう文化やスポーツの分野に投資するなど、もっとやるべき事があるのではないでしょうか。

給料は増やさなくていい。 そんなことよりも、事務的な仕事(給食業者への連絡)、教科書等の手続き、委員会への書類作成、授業計画や研修会のレポート提出、その他諸々の事務的な作業や備品チェック等の仕事をなくすか減らしてくれれば、それらに取られていた時間を生徒や教材準備にあてることができる。 給料より業務内容を検討し、教職員にも生徒や保護者にも有効なる改革にしてもらいたい。

 まとめ

日本の教育現場での教員の労働環境改善に向けた取り組みは、教職調整額の引き上げという形で大きな変革を迎えようとしています。

この増額は、長時間労働や教員不足といった深刻な課題に対処し、教員の待遇を改善するための一歩として期待されています。しかし、現場の先生たちからは教職調整額の引き上げだけでは、根本的な問題を解決するには不十分であると言う声が多く上がっていました。

持続可能な教育環境を実現するためには、教員たちの声を反映した実効性のある施策が必要であり、これからの取り組みが教育現場にどのような影響をもたらすのか、引き続き注目していく必要があります。

投稿者プロフィール

管理者
管理者
現役で数学を教えている中学校の先生です。中学の数学のプリントやICT関連の情報、ブログでは道徳や学級レクのネタも発信しています。
このサイトはアフィリエイト広告(Amazonアソシエイト含む)を掲載しています。